2026.01.08
職人が真摯に紡いできた、焼鳥と人の輪
目黒区に店を構える焼鳥の名店「焼鳥 鳥よし」。中目黒本店では、焼き場をぐるりと囲むカウンター席で、炭火の香りや職人の手さばきを間近に感じながら、会話と食事を楽しむことができます。

この店を率いるのが、職人歴50年以上の大将・猪股善人さんです。六本木の有名焼鳥店をはじめ、数々の名店で修業を重ねたのち、フランスでの経験を経て現在に至るまで、焼鳥一筋に歩んできました。穏やかな語り口の中に、職人としての信念と情熱がにじみます。
猪股さんはフランスへ渡り、多くを学んだと語ります。フランスでの経験は大きなチャンスになりました。フランスの国鳥はニワトリ。鶏料理はもちろん、国鳥である鶏を大切にする文化に深く触れたといいます。「フランスの人々は鶏に対して頑固で妥協しない。その姿勢に刺激を受け、日本でも良質な鶏を使いたいと思った」と語ります。ブレス鶏をはじめとする地鶏の多様さと品質の高さに感銘を受けた経験が、帰国後の焼鳥づくりに大きな影響を与えました。そして、縁あって出会ったのが福島県産の「伊達鶏」でした。

鳥よしでは現在、ほとんどの焼鳥に伊達鶏を使用しています。猪股さんはその魅力を「内臓がとにかく美味しい」と語ります。鶏の各部位を細かく分類し提供する焼鳥のスタイルには内臓のおいしい伊達鶏が最適です。「内臓が美味しいということは、健康な鶏である証拠。生産者がいかに丁寧に飼育しているかが伝わってくる」と評価します。福島の豊かな自然と清らかな水が、伊達鶏の味わいを支えているといいます。「水が良ければ内臓も良くなる。だから伊達鶏はどの部位も旨いんです」と力を込めます。さらに、「伊達鶏は和食にもフレンチにも中華にも合う万能選手。赤鶏の中でも群を抜いている」と絶賛しています。

鳥よしの焼鳥の魅力について尋ねると、「焼鳥は味だけでなく、人との距離感が大切」と猪股さんは語ります。カウンター越しに炭火で焼き上げる光景は、職人の技と緊張感に満ちています。「お客様と向き合いながら焼くことで、その場の空気や会話も味の一部になる」と言います。食とは単なる食事ではなく、人と人との関わりの中で生まれる”体験”であるというのが、彼の信念です。
伊達鶏の旨味を引き出すための工夫については、「主役である鶏を最大限に生かすには、脇役の存在が欠かせない」と語ります。塩やタレ、そして炭の火加減が重要です。こうした脇役の存在が、鶏の持つ旨味をさらに引き出す鍵になります。「主役と脇役のバランスを大切にすること。それが料理人の仕事です」と力強く語りました。遠赤外線でじっくりと焼くことで、外は香ばしく、中はふんわりと仕上げるのが鳥よし流です。

猪股さんの原点は、数々の焼鳥店で培った修業時代にあります。当時は朝から晩まで働きづめの毎日で、今なら「ブラック企業」と言われてもおかしくない環境でしたが、「それが当たり前だと思っていた」と笑います。がむしゃらに働く中で業界に溶け込み、先輩の姿を見て学びながら、自らの道を切り開いてきました。「チャンスはどこにでもある。それを掴めるかどうかは、どれだけ真剣に向き合うかで決まる」と語る姿からは、職人としての真摯な姿勢が伝わります。
猪股さんは、苦労を「成長の種」に例えます。「苦労は成長の種をもらっているようなもの。その種をどう育てるかは自分次第。芽を出し、花を咲かせ、実をつける。それが人生と同じです」と話します。困難を苦しみではなく糧として受け止め、そこから学び続ける姿勢こそが、彼の歩みを支えてきた原動力です。「嫌だと思えば苦労になる。楽しいと思えばすべてが学びになる」と笑うその表情には、前向きに仕事と向き合ってきた年月の重みが感じられます。

今後の展望について猪股さんは、「日本の焼鳥文化を世界に広めたい」と語ります。フランスでの経験を通じて、海外でも日本のカウンター文化が評価される可能性を感じたといいます。「寿司や天ぷらのように、焼鳥も和食の一部として海外に広げていきたい。人に愛され、文化として残るものにしたい」と意気込みを語りました。
最後に猪股さんは、「良い食材は大砲で言うところの良い球のようなもの。良い球は人の心を打つ」と笑顔を見せました。そして、「焼鳥は人と人をつなぐ架け橋だと思っています」とも語ります。炭火を操り、お客様の笑顔を生み出すその姿には、焼鳥を通して人とのつながりを大切にしてきた職人としての誇りが感じられます。
焼鳥 鳥よし 中目黒店
住所 東京都目黒区上目黒2丁目8−6 谷島ビル 1F
営業時間 16:00~22:00
定休日 不定休